シルエット
bboyingにおいて非常に難しい問題の1つです。
輪郭を含意する意味であり厳密に言うと輪郭ではないのですが、あえて便宜的に輪郭そのものであるという解釈の下、話を進めていきます。
bboyingのシルエットにおける禁忌と言えば
棒立ち
左右対称
が代表的でしょうか。
人体のあるべき直立の状態はbboyingにおいてはあまり好まれません。
初心者や立ちの練度が甘い場合に多く見られがちですが背中のラインを作らず踊っているbboyを多く見かけます。
立っているだけで格好いいモデルのようなスタイル強者についてはこれに限りませんが、非常に稀であるためあまり参考になりません。
日本人は骨格や身体的特徴のせいもありますが、ただ立っているだけで格好の良い人間というのはなかなかいません。
そうしたスタイル弱者は弱者なりのメソッドの確立が必要になってきます。
重心は下に、かつ背筋の表現、からの背筋から首筋、頭頂に至るまでのライン作りが求められます。
背中で語ることが重要だったりするわけですね。
そうなると背筋のボリュームが重要になってくるわけですがなかなか肥大しづらいこともあるので、服装でカバーするのもまた1つのテクニックとなってくるでしょう。
そして左右対称もあまり好ましくありません。
シンメトリー・アシンメトリーの話になるとかなり長い話になってしまうため割愛しますが、西洋・中国がシンメトリーを好むのに対して日本はアシンメトリーを好む、という傾向にあります。
茶道、生け花など、不足の美、アンバランスの美という、崩れることによってそれ自体が美となる視覚的観念ですね。
脳の構造の問題なのかもしれませんが、遺伝子の伝播としては奇形や病原体に晒されておらず健康体としての証明故かシンメトリーを好む傾向があります。それにも関わらず、その対極となるアシンメトリーをも美的感覚として保有しているパラドックスはなかなかに興味深いと言えるでしょう。
また江戸時代における粋、野暮、気障という概念からも完璧すぎることを嫌う日本人の国民性をうかがい知ることができます。
暗示的な侘びさびの文化、正面に正対することを嫌う文化、などなど実はシルエット以外にフレイヴァー的な観点からもbboyingに日本的な共通性を見出すことができます。
あまりにわかりやすすぎることをすると、かえって痛寒くなるというやつですね。
直接的になりすぎるとかえって美を損なう、ということはあらゆる芸術に共通しており、そして日本においては日常生活に浸透しています。
bboyingの最も代表的なフリーズであるチェアなどはアシンメトリーの極致であると言えるでしょう。
チェアという言葉も知らない者からすると、その形が何を意味するかはわからないが特徴的かつクールなシルエットであるという認識を持つでしょう。
と、ここまで来て、いや待てよ、パワームーブは円運動というシンメトリーの代表的な動きなんじゃないか、という指摘があるかと思います。
しかし円運動は「右」か「左」かどちらかしか選択できません。
同時に「右回転」と「左回転」を両立しえない時点でこれもアシンメトリーであると言え、さらにあらゆるパワームーブは「変形」という「崩し」に発展していきます。
まだまだ書き足りないところではありますが、要するにシルエットもムーブの構造もシンメトリーであることはbboyingにおいてあまりよろしくない、と言ったところでしょうか。