元来素人を寄せ付けない敷居の高さが売りのbboy界ではあったが、近年はそれに拍車がかかっているばかりか、そもそも既存のbboyすらをもはねつけるほどのインフレぶりを見せている。
もはや二択しかない。
パワームーバーになるか、オールマイティーになるか。
いずれも上層部に食い込むためには鬼神のごとき極致性に至らなければならない。
一昔前に論じられていたバイト問題についても、要はバイトできないようなレベルの高いことをしたらいいという結論通り、近年のハイパーインフレからか容易にバイトができなくなり、またバイトが完成した頃にはシーンの流行りやレベルがもう先にある、という状況でありバイトを率先してやるメリットが薄く、それであれば先を見据えたムーブ作りをした方が効率的である、という状況になっている。
まぁそこまで先進的な価値観を有しているのは極一部の話ではあるが。
一度はフィジカル性ばかりが前面に押し出されていたことを嫌っていたシーンは、今ここに至りやはりフィジカルが全てだと言わんばかりの現状である。
そしてそれはなんら間違っていない。
お前より俺の方がフレッシュで凄いことができる、ということがバトルの全てであるからだ。
歴史がどうとか、歴が長いからどうとか、知識がどうとかは極論を言うと一切関係ない。
かえってそれは新しい物を生みだす時に足枷になり、これはこうじゃないとダメ、という杓子定規さはいわゆる「頭が固い」老人と話してるような虚無を生みだしかねない。
しかし、柔軟な発想だけではだめだ。
柔軟さからもたらされるあらゆるインスピレーションを体現できる表現力、つまりは強靭なフィジカルが必要である。
どこまでも曲がる柔軟性、あらゆる体勢を保持できるバランス、信じられないような状況から押し上げる筋力。
終わりの見えないトレーニングが必須なのである。
実質的にプロとアマチュアの乖離が極大化していることは以前にも述べた。
つまり現在は、始めたての素人もトップ層に食い込むことのできない中間層もほぼいっしょくたの状況である。
またbboyingの性質上、ある程度歴を重ねた者でそこから飛躍的にレベルアップしたという者を今まで一人も見たことがない。
ある程度で落ち着いてしまい、レベルが固定化されるきらいがある。
これはもう致し方無いことである。
そもそもが見せることのできるレベルに至るまでに尋常ではない鍛錬を必要とするわけで、ある程度の立ち位置を確保してしまうとそこで満足してしまい、それ以降も血ヘドを吐くようなトレーニングなど人間の精神構造上できるはずもない。
そうなると今後頭角を現す新星達と、既存のbboyには甚大ならざる差が生まれることは自明の理である。
スタート地点で越えるべきハードルの高さがまったく異なるのであるから、全てが違うためだ。
音楽性やダンスの側面はどうとでもなるが、フィジカルについてだけは初期の段階で高めておかないとどうにもならず詰むことが多いため、シーンが求めるフィジカルの会得は絶対である。