エアートラックスのやり方・コツ/パワームーバーの悲哀

今も昔も、bboyなら必ず一度はエアートラックスの洗礼を浴びるでしょう。

 

今でこそエアー人口はかなり多いですが昔はごく限られた人間しかできない技で、今で言えばワンハンドエアー並の高難易度としてすべてのbboyの前に壁として立ちはだかっていました。

 

習得するまでに時間がかかり、肉体的にも高いスペックを求められる技、かつ習得メソッドが確立していなかったことも拍車をかけ、日本でも数人程度、地域によっては誰もできないほどの憧れの技で、選ばれし者しかできないという印象でした。

 

しかし、徐々にエアーのメカニズムや練習方法、メソッドが確立しエアー人口が増えていくにつれ、現在では基本のパワームーブという立ち位置になりました。

とは言っても誰もかれもが出来るような取っつきやすさは無く、いまだに一見さんお断りの狭く厳しい門構えであり、地域によってはいまだに出来る人が少ないということも珍しくないでしょう。

いずれにしても、エアー人口の爆発的な増加は技術のアベレージを押し上げ、それが当たり前の環境になるとまだ年端もいかない子供ですらエアーを飛ばすようになるんですから不思議なものです。

環境次第で軽々と肉体の限界を超えていってしまうのです。

それも数年程度のスパンでアベレージが加速度的に上昇しているため、まだまだ伸びしろのあるカルチャーなのでしょう。

その時々で、もう頭打ちだろう、もうこれ以上は無理だろう、と言った話がよく聞かれますがその数年後には必ず無理だと言われていた技が実現されています。

月並みな言い方ですが、肉体にはまだまだとんでもない可能性が潜んでいるにも関わらず、脳みそが無理だと考えた時点で既にその人の成長は終わっているのでしょう。

 

まぁこうしたエアーの話から何を話したいのかと言うと、パワームーバーの悲哀についてです。

一度でもパワームーブの練習をしたことがある人ならわかるでしょうが、常軌を逸しています。

1つの技を完成させるために、四六時中技のことばかりを考え、拷問のような柔軟に耐え、頭の血管が切れそうな異常な体勢を保持し続け体を作り、何度も何度も体を床に叩きつけ怪我の痛みに耐えながら技術をマスターしていくという地獄の苦行を乗り越えていきます。

そして技が出来た後にクオリティを高める練習も必要であり、これもまた苦しいものです。

ダンスの中でもブレイクダンスはかなり過酷な方ですがパワームーブはさらに輪をかけて地獄のような練習が必要なのです。

他ジャンルですと女性でも上手い方が多いように思いますが、パワームーブになるとトップ層は男性しかいません。

また、ここまで苦労したパワームーブですが、日々の鍛錬を怠るとあっという間に劣化します(笑

当人からすると笑い話ではないのですが、現状維持すらも難しいというシビアさなのです。

柔軟、筋トレ、練習、どれが欠けてもいけませんし、むしろ常にリミットを超えるような苦行を行わなければいけません。

また常に怪我との闘いでもあります。

あなたの周りのパワームーバーで故障を抱えずまったく怪我の無いパワームーバーがいるでしょうか。

上手ければ上手いほど故障を抱えています。

 

こうしたシビアなパワームーブを社会人になっても維持できるでしょうか?

これで子どもがいて家庭を持っているようでしたら、相当に無理をしないと維持することはできないでしょう。

社会人でパワームーブが異常に上手い人がいるようでしたら、その人はかなり多くのことを犠牲にしていると思って間違いないかもしれません。

社会人で家庭を持っている人で上手いパワームーバーをほとんど見たことがありません。

物理的に不可能に近いからでしょうか。

 

続きます。